パート・アルバイトの106万円の壁と厚生年金
社会保険適用拡大2024-2026年のロードマップと、年収106万・130万・160万で手取りがどう変わるか、将来年金がどれだけ増えるかを試算します。
✅ 2026年6月21日 一次情報確認済み(健康保険法・厚生労働省)
短時間労働者の厚生年金加入要件(週20時間・月8.8万・2ヶ月超見込み・学生でない)、企業規模要件の段階拡大(令和4年10月100人超→令和6年10月51人超)、年収の壁・支援強化パッケージ(社会保険適用促進手当)に基づく解説です。
この記事の目次
- 「106万円の壁」と「130万円の壁」 ─ 何が違う?
- 短時間労働者の厚生年金加入5要件と企業規模拡大ロードマップ
- 年収106万・130万・160万で見る手取り減少と将来年金増の損益分岐
- 年収の壁・支援強化パッケージ ─ 社会保険適用促進手当の活用法
1. 「106万円の壁」と「130万円の壁」 ─ 何が違う?
パート・アルバイトの社会保険を巡る「壁」には2種類あります。106万円の壁は、特定適用事業所(被保険者数51人以上の企業、令和6年10月以降)で働く短時間労働者が、月額賃金8.8万円(年収106万円相当)以上+週20時間以上+2ヶ月超見込み+学生でないをすべて満たすと、本人自身が厚生年金・健康保険の被保険者(第2号被保険者)になる基準。
130万円の壁は、企業規模に関わらず、健康保険の被扶養者・国民年金第3号被保険者の収入要件。年収130万円以上になると、配偶者の扶養から外れ、自分で国民健康保険+国民年金(第1号、月17,510円)を支払う必要が出てきます。または、適用拡大対象企業でなくても週30時間(正社員の3/4)以上働くと、健保・厚年の第2号被保険者になります。
つまり「壁」の正体は2つで、(A)106万=特定適用事業所での厚年強制加入ライン、(B)130万=扶養から外れる収入ライン。両者の関係は、(A)の方が低いため、特定適用事業所のパートは年収106万を超えた時点で本人加入(第2号)に切り替わり、給与天引き9.150%+健保約5%が発生します。(B)の130万は適用拡大対象外の小規模事業所のパートに残る壁です。
2. 短時間労働者の厚生年金加入5要件と企業規模拡大ロードマップ
短時間労働者の厚年加入要件は5つすべてを満たす必要があります(健康保険法第3条第1項第9号):
- 勤務先が特定適用事業所:被保険者数51人以上(令和6年10月以降)
- 週の所定労働時間20時間以上:残業時間は含まない、契約上の所定時間
- 月額賃金8.8万円以上:交通費・残業手当・賞与・臨時の手当は含まない
- 2ヶ月超の雇用見込み:契約期間2ヶ月以下でも実態として超える見込みなら対象
- 学生でない:休学中・夜間学生・通信制学生は対象になり得る
企業規模要件の段階拡大ロードマップは、平成28年10月の501人超スタートから始まり、令和4年10月101人超、令和6年(2024年)10月から51人超に縮小されました。さらに将来的には企業規模要件の撤廃(5人以上の全事業所への拡大)が検討されており、令和7年(2025年)成立の年金制度機能強化法でも段階的な縮小・撤廃の方向性が示されています。
たとえばパート従業員30名の小規模事業所(特定適用事業所ではない)で週20時間勤務する妻の場合、現時点では厚年・健保の加入対象外で第3号のままでいられますが、企業規模要件が撤廃されると本人加入に切り替わる可能性が高いです。中小企業の経営者・パート勤務者ともに、今後数年の制度改正動向を注視する必要があります。
3. 年収106万・130万・160万で見る手取り減少と将来年金増の損益分岐
特定適用事業所で働くパート主婦(夫が第2号、自身は第3号)が時給1,100円で勤務時間を増やしていったケースの試算です(東京都・協会けんぽ・所得税住民税考慮、2026年度水準)。
年収106万円(月8.8万円・週20時間):厚年加入で月額賃金が標準報酬月額88,000円(厚年第1級)に該当。本人負担は厚年8,052円+健保約4,500円+雇用保険500円程度=月約13,000円。年156,000円の社会保険料負担増。手取りは約90万円に減少(106万→90万、約16万減)。一方、将来の老齢厚生年金は約4,800円/月(20年勤続換算)増えるため、80歳まで15年受給なら864,000円の増。損益分岐は約5年で逆転します。
年収130万円(月10.8万円・週24時間):標準報酬月額110,000円(厚年第2級)。本人負担は厚年10,065円+健保約5,400円+雇用保険700円=月約16,000円。年192,000円の負担増で手取り約111万円。将来年金増は約6,000円/月(20年勤続)で、損益分岐約4.5年。
年収160万円(月13.3万円・週30時間):標準報酬月額134,000円(厚年第3級)。本人負担は厚年12,261円+健保約6,700円+雇用保険900円=月約20,000円。年240,000円の負担増で手取り約136万円。将来年金増は約7,400円/月(20年勤続)で、損益分岐約4年。
「手取りが減るから働き損」と思いがちですが、将来年金増+傷病手当金(最大1年6ヶ月、給与の2/3)+出産手当金+障害厚生年金の手厚さを考えると、長期的には加入メリットが上回るケースが多いです。特に50代以降は受給開始までの期間が短く、損益分岐到達も早くなります。
4. 年収の壁・支援強化パッケージ ─ 社会保険適用促進手当の活用法
令和5年(2023年)10月から、政府の「年収の壁・支援強化パッケージ」がスタート。中心施策のキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)は、企業が新たに社会保険適用となるパート従業員に対し「社会保険適用促進手当」を支給した場合、企業に1人あたり最大50万円を3年間助成します。
ポイントは「社会保険適用促進手当」が、月額賃金算定の対象から原則除外される点。年収106万円ギリギリでパート従業員が新たに厚年加入になった場合、企業が手当として月1万円を上乗せ支給すると、本来なら年12万円の追加収入で標準報酬月額が上昇するはずが、適用促進手当扱いなら標準報酬月額は据え置きで、本人の保険料負担増を抑えながら手取りを増やせる仕組み。
他にも「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」制度があり、年収130万円を一時的に超えた場合でも、繁忙期等の一時的増収であることを事業主が証明すれば、最大2年間は連続して扶養から外れない柔軟運用が認められています(厚生労働省告示令和5年)。
パート従業員が新たに厚年加入する際は、勤務先の人事担当に「社会保険適用促進手当の対象になるか」「キャリアアップ助成金を会社として申請するか」を必ず確認しましょう。手取り減少をかなり緩和できる可能性があります。
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