屋外作業・建設現場の熱中症対策 — WBGT基準値と労働安全衛生規則
最終更新:2026年6月16日/建設・農業・物流・警備など屋外職種の現場担当向け
職場における熱中症の死亡災害は、厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によれば、毎年20〜30人前後で推移し、建設業・製造業・農業・運送業に集中しています。 業種別の発生比率は建設業が最多で約3割、続いて製造業・農業の順です。
2025年6月1日から施行された労働安全衛生規則の改正により、WBGT28以上または気温31以上の屋外・屋内作業で、熱中症対策の「報告体制」「実施手順」「関係者周知」が罰則付きで義務化されました。 このページは、現場のWBGT基準値と、改正後の最低限の対応をまとめます。
JIS Z 8504 WBGT基準値表(作業強度別)
厚労省「職場における熱中症予防基本対策要綱」と、その根拠となるJIS Z 8504では、作業の強度(代謝率レベル)別にWBGT基準値を定めています。
| 区分 | 作業強度の例 | 熱順化者WBGT基準値 | 非順化者WBGT基準値 |
|---|---|---|---|
| 0 安静 | 安静、軽い座位 | 33 | 32 |
| 1 低代謝率 | 軽い手作業、座位での組立 | 30 | 29 |
| 2 中程度代謝率 | 通常の歩行、軽い荷物の運搬、農作業 | 28 | 26 |
| 3 高代謝率 | 重量物の運搬、シャベル作業、ハンマー作業 | 26 | 23 |
| 4 極高代謝率 | 階段昇降、激しい掘削、全力で走る | 25 | 20 |
出典:JIS Z 8504「熱環境の人間工学—WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく作業者の熱ストレスの評価—暑熱環境」をもとに、厚労省「職場における熱中症予防基本対策要綱」で表示。
「熱順化者」とは平均的な体重・服装の労働者で、少なくとも1週間以前から同種の全作業時間、その温度条件(又は類似若しくはそれ以上の極端な条件)にばく露された者をいう。
2025年6月施行・労安衛規則改正のポイント
2025年6月1日に施行された労働安全衛生規則の改正で、熱中症対策が罰則付きで義務化されました。対象は、WBGT28以上または気温31以上で連続1時間以上または1日累計4時間超の作業を行う事業場です。
- 体制整備(報告体制):自覚症状の有無・周囲が異変に気づいた場合の報告先(連絡担当者)を事業場で定め、関係者に周知
- 実施手順:熱中症のおそれがある作業者を見つけたときの初動対応(医療機関の連絡先・救急要請判断・応急処置)を文書化
- 関係者周知:体制と手順を、現場の作業者全員が見える場所に掲示し、朝礼・KY活動で確認
- 違反は50万円以下の罰金。事業者責任で安全配慮義務違反となれば、労災に加え民事賠償リスクも
元請・下請の重層構造の現場では、元請の責任で全作業者を巻き込む体制が求められます。 一人親方・個人事業主も保護対象です。
現場でやるべき実践対策
- 作業前ミーティング:WBGT計測値の共有、体調確認、休憩時間の事前計画
- 休憩所の確保:日陰・冷房付き休憩所(プレハブ・テント+ミスト・スポットクーラー)
- WBGT計の常時設置:作業場所付近に1台。JIS B7922対応品、5,000〜30,000円
- こまめな水分・塩分:のどが渇く前に、15〜20分おきにコップ1杯。塩飴・梅干し・経口補水液
- 空調服・ファン付きベスト:実測でWBGTを3〜5度下げる効果。バッテリー予備の確保
- 作業時間の前倒し:朝6時〜10時、夕16時以降にシフト。日中の炎天下を避ける
- 2人1組での見守り:1人作業を避ける。30分おきに声かけ・顔色確認
- 熱順化期間の確保:暑くなり始めた最初の1週間は作業強度を落とす。新入りは特に注意
現場での応急処置と119番判断
- 意識を確認:呼びかけに反応しない・受け答えがおかしい→即119番
- 涼しい場所へ移動:日陰・休憩所・エアコン付きの車内・現場事務所
- 衣服を緩める:作業着のボタン・ベルトを外して、熱の放散を妨げない
- 体を冷やす:水道水・氷嚢・濡れタオルで首・脇の下・足の付け根を冷やす。霧吹き+うちわで気化熱を促進
- 水分・塩分補給:意識があり自力で飲める場合のみ。経口補水液(OS-1)・スポーツドリンク
- 30分以内に改善しない、または症状が悪化→119番。早期の医療機関搬送で救命率が大きく変わる
絶対にやってはいけない対応:意識がない人に水分を飲ませる(誤嚥)、休めば治ると放置する、家まで送り届ける(病院に行かない判断)、本人の「大丈夫」を信用する。
熱中症が業務中に起きたら(労災の流れ)
業務中の熱中症は、原則として労災保険給付の対象です。 通勤中も通勤災害として給付対象になります。
- 労災保険の請求:労働基準監督署に「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」を提出
- 休業4日以上:休業補償給付(給付基礎日額の60%+特別支給金20%)
- 後遺障害:障害補償給付。重度の場合は障害等級表に応じた一時金または年金
- 死亡:遺族補償給付(遺族年金)+葬祭料
- 事業主の安全配慮義務違反が認められれば、別途民事賠償請求も可能
- 労災隠しは労働安全衛生法100条違反で50万円以下の罰金。労基署への報告は必須
現場管理者の最終チェックリスト
- WBGT計の電源・電池確認、毎時計測の記録
- 熱中症警戒アラート発表日は、作業時間短縮・中止判断を事前に共有
- 休憩所の冷房・経口補水液・氷の準備
- 新入り・前日寝不足・体調不良の作業者の作業強度を下げる
- 119番通報の連絡先・現場の住所・救急車進入経路の事前確認
- 労災隠しは厳禁。報告漏れは厚生労働省の労働基準監督署または労働局へ