食後(随時)採血と空腹時採血の違い・GL2022の基準変更点
2022年版ガイドラインから「随時採血」の中性脂肪基準が追加されました。 食事の影響を受けるTGの基準が時間帯で分かれる理由と、判定の使い分けを解説します。
「空腹時」と「随時」の定義
脂質検査における空腹時採血とは、最後の食事から10時間以上経過した状態での採血。 一般的に健康診断は朝9〜10時に行うため、前日21時までに夕食を済ませれば空腹時の条件を満たします。 水・無糖のお茶は摂取してOK。
一方随時採血は、食事時間を問わない採血。 午後の健診や、忙しい人のための非絶食検査として行われます。 糖尿病の急性合併症で来院した患者の検査など、絶食できない状況でも採血されます。
GL2022での基準値変更
日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版から、随時採血のTG基準が新設されました。 以下が2017年版(旧)と2022年版(新)の比較:
| 項目 | 2017年版 | 2022年版 |
|---|---|---|
| LDL | 140以上 | 140以上(変更なし) |
| HDL | 40未満 | 40未満(変更なし) |
| TG空腹時 | 150以上 | 150以上(変更なし) |
| TG随時 | 基準なし | 175以上(新設) |
| non-HDL | 170以上 | 170以上(変更なし) |
なぜ随時基準が追加されたか
欧州動脈硬化学会(EAS)と欧州臨床化学検査医学会(EFLM)が2016年に 「絶食なしの脂質検査」を推奨する共同提言を発表しました。 欧米では随時採血が標準化されており、日本でも追随する形でGL2022に随時基準が盛り込まれました。
理由は単純で、絶食時間を厳密に守れる人が少ないから。 特に高齢者・糖尿病患者は長時間の絶食が体調不良を招くため、 随時採血のほうが安全に検査できます。 欧米のデータでは随時TGも空腹時とほぼ同じ予測能を持つことが示されています。
食事の影響を受ける項目・受けない項目
脂質4項目のうち、食事の影響を受けるのは中性脂肪のみ。 理由は以下の通りです:
- LDL:肝臓で合成され、半減期2〜3日。食事の影響は小さい
- HDL:肝臓・腸で合成され、半減期4〜5日。食事の影響は小さい
- TG(中性脂肪):食事の脂肪が直接血中に出るため、食後2〜6時間でピーク。元の値に戻るまで8〜10時間
- 総コレステロール:LDLとHDLの合計のため、食事の影響は小さい
つまり随時採血でTG値が高く出るのは生理的な反応で、 175以上を診断基準にすることで「食事影響を引いた上で異常か」を判定しています。
健診票の「絶食時間」欄の意味
健康診断の結果表に「絶食時間:◯時間」「最終食事:◯時」と書かれていることがあります。 これは検査機関が空腹時/随時を判定するため。 一般的に10時間以上を空腹時、10時間未満を随時として扱います。
結果表に「随時」と書かれている場合、TG基準は175以上で判定するのが正しい。 自分で本ツールに入力する時は、健診票の絶食時間を確認して空腹時/随時を選んでください。
随時採血で測れない・測りにくい項目
1つ注意点として、LDL値の計算式(Friedewald式)はTGが400未満でしか使えません。 TGが極端に高い人は、随時採血ではLDL値が正確に出ない場合があります。 そういう人は直接法で測るか、non-HDLコレステロールで判定するのが推奨されます。
non-HDLは総コレステロールからHDLを引くだけなので、TGに影響されません。 GL2022から正式に診断基準(170以上)に含まれました。
空腹時/随時で迷ったときの判定
結果表に明記がなく、自分でも覚えていない場合の対処:
- 朝採血なら通常は空腹時扱い(前日21時以降絶食なら)
- 午後採血で昼食を食べた後なら随時扱い
- 判定が境界線上(例:TG 160)なら、両方の基準で判定して厳しい方を採用するのが安全
- 本ツールでも採血タイミングを切り替えて両方の結果を比較できます