B2B取引の証跡フロー全体像
日本のB2B取引は「発注書(注文書)→ 注文請書 → 納品書 → 受領書(検収書) → 請求書 → 領収書」の6書類で証跡を残すのが商習慣。米国のPurchase Order/Invoiceに対し、間に「納品書」「受領書」が入る点が特徴的。
| 段階 | 書類 | 発行する側 | 法的根拠 |
|---|---|---|---|
| ① 発注 | 発注書(注文書) | 買い手 | 民法555条売買 or 632条請負「申込み」/下請法3条書面 |
| ② 受注 | 注文請書 | 売り手 | 民法「承諾」/印紙税法第2号文書 |
| ③ 納品 | 納品書 | 売り手 | 商習慣(法的義務なし)/インボイス制度 |
| ④ 受領 | 受領書・検収書 | 買い手 | 商習慣/下請法60日支払期日カウント基準 |
| ⑤ 請求 | 請求書 | 売り手 | 民法412条履行請求/インボイス制度 |
| ⑥ 領収 | 領収書 | 売り手 | 民法486条「請求があるときは交付義務」/印紙税法第17号文書 |
① 発注書(注文書)
発行タイミング
取引開始時。買い手が「この条件でこれを発注します」と明示する書類。電子で発行する場合はPDF+メール送付が一般的。
法的根拠
- 民法555条:売買契約の「申込み」(物品の購入の場合)
- 民法632条:請負契約の「申込み」(製作・修理・役務の場合)
- 下請法3条:親事業者は注文時に3条書面の交付義務(口頭発注は違法)
- フリーランス新法(令和6年11月施行):特定受託事業者への発注時に書面交付義務
電帳法上の扱い
PDF発注書をメール送付した場合、送付した側(買い手)の控えも、受領した側(売り手)の発注書も、電子取引データ保存の対象。3要件を満たして7年保存(法人・個人事業主とも)。
② 注文請書
発行タイミング
発注を受領した後。売り手が「受注しました」と明示する書類。
法的根拠
- 民法523条以下:契約の「承諾」(申込みに対する応諾で契約成立)
- 印紙税法第2号文書「請負契約書」:請負契約の請書は段階別印紙税の対象
- 電子発行(PDF)なら印紙税は非課税
注文請書を省略するパターン
実務では、発注書に「異議なき場合は受注したものとみなす」文言を入れて注文請書を省略するケースも多い。ただしこの場合、発注書自体が契約書として印紙税対象となるリスクあり(電子発行なら非課税)。
③ 納品書
発行タイミング
物品・成果物を納品するとき。物販なら商品と同梱、業務委託ならメール添付。
法的根拠と役割
- 法的義務はないが、商習慣・税務調査での突合・債権管理の起点として広く根付く
- インボイス制度(令和5年10月開始)の6項目要件を満たせば、納品書単独で適格請求書として使用可
- 請求書と組み合わせて6項目を満たす運用も国税庁No.6625で認められる
④ 受領書・検収書
発行タイミング
納品物を受け取った後、または検査を完了した後。買い手が「受け取りました/検収しました」と明示。
法的根拠と役割
- 商習慣(民法上の明文規定はなし)
- 下請法第2条の2:物品等の「受領日」から60日以内が代金支払期日の上限
- 下請法第4条:受領後60日以内に検査完了義務(検査を行う取引の場合)
- ITシステム開発などは「検収日」を明確化するため、検収書を必ず取り交わす
受領印・受領書の電子化
紙運用の場合は納品書の控えに受領印を押して売り手に返す形式。電子運用では、メール返信での受領確認(タイムスタンプ付き)、または電子契約サービスでの検収署名で代替。
⑤ 請求書
発行タイミング
納品後(または月締めで複数納品をまとめて)、売り手が買い手に代金を請求するとき。
法的根拠と役割
- 民法412条:履行期限の定めがある債務は期限到来で履行請求可能
- インボイス制度6項目:発行者名・登録番号・取引年月日・取引内容・税率ごとの対価・税率ごとの消費税額・受領者名
- 適格請求書発行事業者の請求書写し保存義務:7年間
納品書との連携
月内に複数納品がある場合、納品書では取引年月日・取引内容・税率ごとの対価を記載し、請求書で発行者の登録番号・税率ごとの消費税額・受領者名・「納品書番号◯〜◯にかかる請求」を集約する分担運用が国税庁No.6625で認められる。
⑥ 領収書
発行タイミング
代金を入金されたとき、売り手が「受け取りました」と明示する書類。
法的根拠と役割
- 民法486条:弁済者は受取証書の交付を請求できる(請求があれば発行義務)
- 印紙税法第17号文書「金銭または有価証券の受取書」:5万円以上で印紙税の対象
- 電子領収書(PDF・メール送付)は印紙税非課税
- 銀行振込の場合、通帳・取引明細が領収書代わりになるため省略可能
電子帳簿保存法の3要件(電子取引データ保存)
上記6書類すべてを電子取引で授受した場合、電子取引データ保存の3要件を満たして保存することが令和6年1月以降義務化されています。
① 真実性の確保
次のいずれか:
- タイムスタンプを付与した電子データの授受
- 受領後速やかにタイムスタンプを付与
- 訂正削除を記録または禁止できるシステムでの授受・保存
- 事務処理規程を備え付けて運用(中小・個人で現実的な選択肢)
② 可視性の確保
- ディスプレイ・プリンタおよび操作マニュアル等の備付
- 整然とした形式・明瞭な状態で出力できること
③ 検索機能の確保
- 取引年月日・取引金額・取引先での検索が可能
- ファイル名で実現(「20260620_株式会社サンプル_50000_発注書.pdf」のような命名)
- 索引簿(Excel等)で実現
- 専用システム(会計ソフト・電帳法対応ストレージ)で実現
- 基準期間(2期前)売上高5000万円以下の事業者は、税務職員のダウンロード要請に応じれば検索機能不要(猶予措置)
保存期間と保存場所
| 事業者種別 | 保存期間 |
|---|---|
| 法人 | 7年(青色申告で欠損金が出た事業年度は10年) |
| 個人事業主(青色) | 7年 |
| 個人事業主(白色) | 5年 |
| 消費税課税事業者(仕入税額控除) | 7年 |
保存場所は事業所内ローカル・社内サーバー・クラウドのいずれも可。重要なのは「税務調査時に即時に出力できる状態」を保つこと。
フォルダ構成と命名ルールの実例
検索要件をファイル名で満たす場合の運用例:
- 取引種別フォルダ(発注書/納品書/受領書/請求書/領収書)
- 事業年度サブフォルダ(2026年/)
- 月別サブフォルダ(06月/)
- ファイル名「YYYYMMDD_取引先名_金額_書類名.pdf」
例:2026年/06月/発注書/20260620_株式会社サンプル_500000_発注書.pdf
OSの全文検索(macのSpotlight・WindowsのExplorer検索)で「20260620」「サンプル」「500000」のいずれでも一発でヒット。社内で命名フォーマットを統一しておくのがポイント。
取引パターン別の電帳法対応
| パターン | 電帳法上の区分 | 対応 |
|---|---|---|
| PDF発注書をメール添付で送付 | 電子取引(送付側) | 送付した自社控えを3要件で保存(義務) |
| PDF発注書をメール添付で受領 | 電子取引(受領側) | 受領した発注書を3要件で保存(義務) |
| 紙の発注書を郵送(送付側) | 紙書類の控え | 紙の控えを7年保存(紙 or PDF) |
| 紙の発注書を郵送で受領 | 紙保存 or スキャナ保存(任意) | 原本7年保存 or 要件を満たしてスキャナ保存 |
| 電子契約サービスで発注書締結 | 電子取引 | サービス内ストレージで3要件保存(サービス側がほぼ自動対応) |
下請法と電帳法の同時対応
発注者が下請法対象事業者の場合、3条書面の交付(書面 or 電磁的方法)に加えて、電帳法の電子取引データ保存も同時に対応する必要があります。
- 下請法:3条書面の電磁的方法による交付には、下請事業者の事前承諾が必要
- 下請法:発注書(3条書面)に8号項目(品名・数量・代金額・支払期日等)を漏れなく記載
- 電帳法:送付した自社控えを電子取引データとして3要件で保存
- 事務処理規程:下請法と電帳法の両方の運用ルールを盛り込んだ規程を備え付け
令和7年取適法改称後の対応
令和7年に下請法は「中小受託取引適正化法」(取適法)に改称される予定。改称後も3条書面の交付義務は維持され、対象範囲がさらに拡大される見込み(運送業の追加など)。
- 法律名の変更(下請法 → 中小受託取引適正化法)
- 「親事業者」「下請事業者」の用語が「委託事業者」「中小受託事業者」に変更
- 適用対象の拡大(運送業・従業員基準の追加検討)
- 手形による下請代金支払の60日要件の明文化(令和8年11月から運用強化)
改称後は社内テンプレートの用語修正(「親事業者」→「委託事業者」など)を一斉に行う必要があるため、移行スケジュールを今から検討しておくのが安全。
関連ツール
発注書・注文書の作成・印刷で発注段階のPDF発注書を、納品書の作成・印刷で納品段階のPDFを、請求書の作成で請求段階のPDFを、領収書の作成で領収段階のPDFを、それぞれブラウザだけで作れます。