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繰下げ受給で年金84%増の損益分岐 — 何歳まで生きれば得?

年金の受給開始は65歳が原則ですが、最大75歳まで繰り下げると84%増額。「いつ受け取り始めるのが一番得か」を、累計受給額の損益分岐点から逆算します。

繰下げ受給のルール(2026年6月時点)

繰下げ受給は、65歳の受給開始時期を後ろ倒しすることで、1ヶ月あたり0.7%ずつ年金額を増額する仕組みです。日本年金機構の公表ルールでは次のとおり。

  • 増額率:1ヶ月遅らせるごとに0.7%増(例:66歳=8.4%、70歳=42%、75歳=84%)
  • 繰下げの上限:75歳(120ヶ月=84%増)
  • 適用範囲:老齢基礎年金・老齢厚生年金それぞれ別に繰り下げ可能
  • 増額は一生継続:一度繰り下げて受給を始めたら、その増額率は終身続く
  • 遡及受給の選択肢:請求時に「過去5年分を一括」「将来へ繰下げ増額」のどちらかを選べる(2023年4月の改正で拡大)

逆に65歳より前倒しする「繰上げ受給」は1ヶ月あたり0.4%減額(昭和37年4月2日以後生まれ)で、最大60歳まで繰り上げると24%減。こちらも一生続きます。

損益分岐の基本式

繰下げ受給の損益分岐は、「65歳開始の累計額と、繰下げ後開始の累計額がいつ並ぶか」で考えます。式はシンプル。

  • 65歳開始の累計:年金月額 × 12 × (生存年数 - 65)
  • X歳繰下げの累計:年金月額 × (1 + 0.7% × (X-65)×12) × 12 × (生存年数 - X)
  • 損益分岐:両者が等しくなる生存年齢

これを計算すると、増額率に関わらず「繰下げ開始年齢 + 約11年11ヶ月」で65歳開始を逆転します。65歳開始者と同じ累計に追いつくのに、約12年かかるという目安です。

具体例:月15万円の年金を66歳〜75歳に繰り下げた場合

月額15万円(年額180万円)の年金を持つ人が、それぞれの年齢から受け取り始めた場合の累計額と損益分岐点を整理します。

  • 65歳開始:月15万円・年180万円。80歳までで累計2,700万円。
  • 66歳開始(8.4%増):月16.26万円。損益分岐は77歳11ヶ月
  • 70歳開始(42%増):月21.30万円。損益分岐は81歳11ヶ月。85歳で65歳開始より約540万円多い。
  • 72歳開始(58.8%増):月23.82万円。損益分岐は83歳11ヶ月
  • 75歳開始(84%増):月27.60万円。損益分岐は86歳11ヶ月。90歳で65歳開始より約700万円多い。

損益分岐点は、繰下げ開始年齢に約12年足した年齢が目安。たとえば70歳開始なら82歳前後、75歳開始なら87歳前後で「65歳開始の累計に追いつく」イメージです。

健康寿命との関係 — 「ただ生きる」か「動ける」か

厚生労働省の「令和4年簡易生命表」「健康寿命の令和元年値」が判断材料になります。

  • 平均寿命:男性81.05歳・女性87.09歳
  • 健康寿命:男性72.68歳・女性75.38歳(介護を必要とせず日常生活が送れる期間)
  • 65歳時点の平均余命:男性19.44年(84.44歳)・女性24.30年(89.30歳)

つまり「平均的に生きる」想定なら、男性は75歳繰下げの損益分岐86歳11ヶ月にやや届かず、女性は超えます。ただし65歳まで健康に過ごせた人の余命は平均より長くなる傾向があるため、健康に自信のある人は繰下げが有利になりやすい構図です。

一方で、繰下げ中は年金が入らないため、健康寿命を過ぎてから受給開始しても「お金はあるが動けない」状態になる可能性も。累計受給額の最大化使えるお金が動ける時期に入るのバランスを取る視点が重要です。

繰下げ向き・向かない人の判定基準

累計額の損益分岐だけでなく、生活設計の観点から「繰下げ向きの人」「繰上げ向きの人」を整理します。

繰下げに向いている人

  • 65歳以降も働き続ける予定で、現役収入で生活費が賄える
  • 退職金や金融資産が十分にあり、繰下げ中の生活が成り立つ
  • 長寿の家系で、自分も健康に自信がある
  • 配偶者の年金が遺族年金として残るより、自分の年金額を増やしたい

繰上げを検討すべき人

  • 60〜64歳で生活費が足りず、貯蓄を取り崩したくない
  • 持病があり、長生きする自信がない
  • 働けない事情で早く年金が必要
  • 遺族年金との併給ルール上、繰上げが有利になるケース

迷ったら「65歳から普通に受給」がデフォルト。繰下げ・繰上げどちらも一度開始すると一生変えられない不可逆な選択なので、慎重に判断してください。

繰下げで見落としがちな副作用

「84%増」の数字だけで判断すると損をしかねない、副作用ポイントを整理します。

  • 加給年金は繰下げで増えない:65歳から65歳未満の配偶者を扶養する場合の加給年金(年額40万円程度)は、繰下げ期間中は支給されず、増額対象外。配偶者の年齢によっては数百万円の損失になります。
  • 振替加算も同様:配偶者が65歳になったときの振替加算(年額数万円)も、繰下げ期間中は支給停止。
  • 税金・保険料も増える:年金額が増えると所得税・住民税・国民健康保険料・介護保険料が連動して上がります。表面の84%増がそのまま手取りになるわけではありません。
  • 遺族年金との関係:繰下げ前に亡くなった場合、配偶者は「繰下げを選ばなかった想定」の年金額で遺族年金を計算します。長期に繰り下げて待つほどリスクが大きい。
  • 厚生年金だけ繰下げる選択:老齢基礎年金は65歳から受給し、加給年金分は逃さずもらい、老齢厚生年金だけ繰り下げる手も有効(または逆も可)。

2023年改正で広がった「特例的繰下げ」の使い方

2023年4月施行の改正で「特例的繰下げみなし増額制度」が拡充され、70歳以降に請求するときに過去5年分を一括受給する選択肢ができました。たとえば72歳で「70歳から繰り下げてきたつもりが急にお金が必要になった」場合、67歳〜72歳の5年分を一括で受け取ることができます。

この仕組みのおかげで、繰下げは「受給開始を選べるオプション」として柔軟に使えるようになりました。65歳時点で「とりあえず繰下げ」しておき、70歳までに健康・資産状況で判断するという戦略も現実的です。ただし、改正前から繰り下げていた人は適用ルールが異なるため、年金事務所での確認をおすすめします。

自分の年金額で損益分岐を試算する

本記事の損益分岐は「繰下げ開始年齢+約12年」が目安ですが、加給年金・税金まで含めるとケースごとに数字が変わります。まずは65歳時点での年金見込み額をツールで計算して、繰下げ後の月額を「×1.084(75歳繰下げ)」で確認してみてください。

年金の受給見込み額計算で65歳開始の月額を出し、その数字に1.084を掛ければ75歳繰下げ後の月額に。0.7×繰下げ月数の増額率で柔軟に試算できます。

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